《悪魔の種》はいかに素晴らしくいかに失敗であるか

今現在、王道ハースストーン(公式的な表現ですよ)をプレイしているならばスタンだろうとワイルドだろうと知らずにはいられないカードです。

悪魔の種 | The Demon Seed

《悪魔の種》。

風集うストームウィンドで全クラスに用意された連続クエストの一枚です。最終的に発揮される効果としては『自分のライフが最低21点払われるとで3点ドレイン×2が発生しブライトボーン・タムシンが手に入る』という形になります。

ドレイン分を考えると想定通りに回った際の実質コストは15点と見てもいいでしょう。ご存じの通り、極めて強力なクエストです。

6点ドレインズーやハンドロックであれば地味ながら相手のライフの詰め、勝利ターンを早め、回復判定を発生させて肉の巨人を軽減する事が出来ます。ワイルドではハッピーグールまで降ってくるからたまったものではありません。

強力なシナジーを発揮する効果ですが、これだけでは少々地味です。このカードの凶悪さはクエスト報酬に尽きます。

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デッキ切れが現実に起こり、コントロールデッキが関わるゲームにおいてはデッキ内の総バリューが勝敗に直結してきたハースストーンを根底から覆す1枚です。

あまりに強力なヒーローパワーが災いしデッキ修繕や無限リソースカードを貰えずコントロール勝負に涙を呑んできたウォーロックにとっては福音のようなカードと言えましょう。

その利用法は多岐に渡り、ズーの押し込み・純正コントロール・盗み魔コンボに特化したD6・ウォーロックにおいて真価を発揮できていなかった肉の巨人と死者蘇生を活かしたハンドロック・ハンドロックでも使われたセルフミルセットを用いるファティーウォーロックと枚挙にいとまがありません。

基本的に製作者の想定通りのデッキになりがちな、すなわち”閉じこもりがち”なカードであるクエストというギミックがここまで多くのアーキタイプが生まれた事は驚嘆に値することと言ってよいと思います。

己の命を支払い力を求め、悪魔と契約し、そしてその代償を相手に押し付けて破壊する。

このカードが生み出すデッキはズー・ハンドロック・コントロール・コンボとウォーロックが歩んできたアーキタイプほぼ全てを包み込んでいます。

傭兵の書では驚くべき凶業を働き、カードとしても活躍するタムシン・ロームに相応しい、なんとウォーロックを体現したカードでしょうか。大勝利は中々かわいいですがスクロマンス版はヤバいですね。

ええ、ここまでがウォーロック側の視点です。私はとても素晴らしいカードだと思いますよ。

 

あまりに素晴らしすぎて一人だけ数世代先のゲームをプレイしているような事を除けば。

 

このカードを用いるデッキはバックファイア・入場無料・グルダンの手・ヒーローパワー・生の苦悩・果てはダークポータルにマナ食らいのパンサーラ…と大量のドローを用いる事になり、極めて再現性が高い挙動を示します。なおかつ1T目クエスト・2T目ヒーローパワーがほぼ確定した挙動であり、相手にする側からすると「ウォーロック、毎回同じやな…」という感想を抱くのは否めない話でしょう。

加えてD6以外のアーキタイプでまず投入される死者蘇生も再現性の高さに拍車をかけています。

ライフ3点ペイがメリットとして捉えるこのデッキにおいて驚異の0マナでカードが1枚増える強欲な壺のようなアドバンテージカードであり、闇の睨視者はもちろん、アネザロンやゴールドシャイアのノールと言った手札枚数を参照するカードと併用した場合も一種のマナ回復のように振舞わせられます。その上で回収されるのは一度死亡したミニオンなのです。

このデッキに投入されるミニオンも大いに問題があると言わざるを得ません。デッキの潤滑油である軽量ミニオンはかわいいもので、異常なマナレシオを示す自己コスト軽減ミニオンや血の欠片のブリストルバックは生半可な盤面勝負を困難なものにしています。

そして言うまでもないでしょう。タムシンが控えている以上古典的コントロールデッキがこのデッキに勝利する事は極めて困難です。5マナかつ自分でクエスト達成ターンを選べるタムシンに手札に干渉するメタカードは対策として働かず、ハースストーンに定期的に生まれるアンチコントロールデッキの中でもとりわけ絶望的なマッチアップを生み出すデッキかもしれません。

極端なライフペイを行う関係上一部のアグロデッキに対する相性差は激しいですが、ストームウィンド環境を定義している存在といって間違いないのではないでしょうか。

 

…しかしこれは難問です。このデッキに対しては既に二回のナーフが行われていますが、その成果は何とも言えません。D6を苦手とするハンドロックなどは自身もナーフの影響を受けたにもか関わらずむしろ立場が改善されたようにも思えます。

悪魔の種を維持したまま環境を健全化させるには採用されるカードを完膚なきまでに痛めつけてウォーロックを1年半再起不能にするしかなさそうです。

 

正直に言います。《悪魔の種》は諦めるしかないと考えています。

 

タムシンが破綻しているのはその程度の話ではありません。

初手に確定して現れ、相手がデッキを使い切るまでにライフを削り切れなければ負け、という極めて理不尽な条件を押し付けるカードだからです。

エストローグですら全てを使い果たして毎ターン4/4を出すだけになる事が存在した事を考えればタムシンの自己完結性は圧倒的です。タムシンを出した後は顔の横のボタンを押すだけでいいのです。それはついでのようにカードを供給し、デッキがなくなった後は時間がたつほど強力な攻撃手段になります。

もうやめませんか、このデザインは。

コントロールデッキを優遇しろともアンチコントロールデッキを作るなとも言いませんし、大荒野のプリースト環境が優れていたとは私も思いません。

しかし今回のクエスウォーロックが設定するタイムリミットはあまりにも異常です。このレベルとなるともはやゲーム性自体が違うデッキを強引に戦わせている印象すら受けます。

遊戯王で言えばシンクロ召喚登場前のデッキとエクシーズ召喚後期のデッキで戦っているような根本的な違いを感じるのです。

 

どうやら9月22日に行われる調整で1枚のカードに禁止措置が取られるようです。

匙が投げられるほどのカードといえば私には悪魔の種しか思い浮かびません。

今回ばかりはデザインについての”洞察”を聞かせて欲しい所です。